[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
山形から出てきて、2年目。
東京でサラリーマンとして働きだした村上湊は、ぐったりした顔で電車に揺られていた。
2年目を迎え、新卒社員が会社にはいってきた。去年の今頃は、自分もその位置にいた。
そのうちに、営業部にも新卒社員が配属されてくるのだろう。
やる気はある、まだまだある。気持ちは新卒社員に負けていないと思ってる。
だけど、感情と行動が伴わないのだ。
もやもやとした思考をぐるぐるさせているうちに、最寄駅に着いた。
改札を抜け、階段をのぼり、地上に出る。
いつもと同じ道をほぼ無意識に歩きながら、湊は今日はなにを食べようかとぼんやりと考える。
いい加減、コンビニ弁当もスーパーの惣菜も、チェーンの牛丼も飽きてきた。
上京してたったの2年で、近所で提供されるラインナップに飽きてしまうのは、いささか問題だが致し方ない。
どうしたって限られた行動圏内で食事を済まそうとすると、限られてしまうのだ。
「ん?」
いつも通っている道に、見慣れぬ看板が出ている。
『Bar スプートニク』と、あるが食事のメニューが大きく看板には描かれている。
「オムライス……」
湊は好物の表記に思わず足を止めた。
ふわふわ半熟卵のオムライスでも、しっかり焼かれた昔なつかしオムライスでも
オムライスなら構わず好きなのだ。最後に食べたのは、たぶん、3か月前。
客先に向かう途中のファミレスで食べた、きのこクリームオムライス。
看板に描かれているのは、赤いケチャップがかかっているベーシックなオムライス。
気づけば足は店の方へ向いていた。
初めての店は多少の緊張を伴うが、一回はいってしまえばどうにかなる。
気に入らなければそれきりだし、うまくいけば夕飯にオムライスが食べれる店が増えるのだ。
店はガラス張りで、中をうかがうことができた。
先客はいるようだが、入りにくい雰囲気でもない。
ほんの少しだけ緊張しながら、湊はガラス戸を押し開けた。
「いらっしゃい。おひとりさん?」
「あ、はい」
「好きなところ座って」
店の店主は、人のよさそうな笑みを浮かべる男性だ。
暗い色のシャツを着ていて、バーのマスターというよりカフェのマスターといった感じだ。
常連ぽい客はカウンター席に座って、お酒を飲んでいる。
湊は、少し手前のテーブル席に腰かけた。
「あの……、オムライスを」
「飲み物は?」
「あ、じゃあ……ジントニックで」
なんだか女子っぽい注文だな、と湊はぼんやり思った。
すこし落ち着いて店内を見回す。
店主の趣味なのだろうか。
アジアンとアンティークがごちゃまぜになったようなレイアウトだ。